「先生」「先生、お帰りなさい!」
「……ただいま。王泥喜くん」
何も知らない彼は笑って笑って、
かつて堕とした男との腹の探り合いから帰ってきた私を、
待ちわびていたのだと、まるで隠しもせずに迎え入れてくる。
「あの、紅茶とコーヒー、どちらを?」
「コーヒーをお願いしようか」
「はいっ!」私は何も語らない。
語らないままここから出かけて、戻ってきては、語られぬ者のその声を聞く。
問われることはないのだろう。問うてはならない。
語るべきことはないだろう。語ることをしない。
疑いかかられようことを、しない。
疑ってはならない。
そうして私は今日もまた、満ちる笑顔と言葉によってここに迎え入れられる。
『その目をこの両の手にて塞ぎ、それから、己がの瞳も閉じる』