☆上目遣い→ジャック×遊星×ジャック





 ふたりサテライトでデュエルの腕を競っていたころ、遊星の身長は、ちょうどジャックを見上げるほどのものであった。
 とはいえ、細めて見下げてくる彼の両瞳を不愉快だなどと感じたことはない。
 それはおそらく、その視線そのものに孕まれる悪意がなかったためだ。

 遊星。遊星。遊星。
 斜め上から聞こえてくるジャックの声色は、その距離すらをも楽しむかのようにして跳ねてきた。



 今では、並んだだろうか。今になら、もしかして、そろそろ並んだであろうか。
 互いにしておそらく、あの頃の色合い失せた。





 視線と視線。














☆ツンデレ→ジャック×遊星×ジャック





「デュエルをしたのか」
 するとジャックは、笑みをたたえて頷いた。
「たいしたデュエルじゃなかったらしいな」
 どうして、と。問われれば素っ気のない声を返す。
「つまらなかった……そういう、顔をしている」
 笑顔のうらに。ジャックという名の男の、本音。


 別段かわった気遣いをしてやったわけでもない。
 ただ、解るのだった。それだけのことだ。
 そのほか、何をしてやろうという、こともない。

 するとジャックがもう一度、その顔立ちに笑みをたたえる。
 声は遊星を、デュエルへと誘ってきた。



「いいだろう」
 断る理由もなかった。





 まだかろうじて、灰色の空のもとでも満足できていた頃の、こと。














☆無口→ジャック×(vs)遊星





 唇を戦慄かせて、目眩でも抑えるかのように、ジャック=アトラスが呟いた。
「どうして何も言わない」
 紫の両瞳に睨みつけられる。
 しかしながら、なおも遊星は、なにひとつ言い返せずにいた。
 言い返さずにいた。

 代わりにというわけではなかったのだが、引き攣るその白い頬へ触れようと挙げた掌を、当のジャックの腕によって掴み上げられる。


「お前の、そういうところがいけ好かないんだ」



 ジャック、と。
 遊星は彼の名を呼んだ。
 鼓動でもって、呼んだ。
 声としては放たなかった。


「遊星。お前には、解せまい……なにもかもッ……!」





 このままに何も言わないでいれば、ジャックは激昂して、拳のひとつぐらい寄越してくるかも知れない。
 そうしたら頭も冷えるだろうか。

 それならばそれで構わなかった。














☆女装、男装→ジャック×遊星





 いつの日かの、がらくたの山の中。
 はみ出すようにして、安っぽいドレスが紛れ込んでいた。
 いったい何者が投棄して去ったのであろうか。
 ところどころが破けていた。確かに、あの様では盛装にもなるまい。



 空よりも、海よりも、陸の果実に近しき青色。
「眼の色だな。おまえの」
「そうか」
 ジャックはその、使い物にならなくなったドレスを掌でもってつかみ出した。
 もう残骸、と呼ぶほどではない。
 だからといって売り物になるわけでもない。
「ああ……よく似ている」
 そのドレスより、もう少しだけ甘くした色合いをもつ両の瞳を、細めながらにジャックは口角を歪めた。

 こんなにも破けてしまったので捨てられた。
 あるいは、傷のうちの幾らか、山の中に含まれている硝子の破片によって出来上がったものであるのかも知れない。
(……どちらにしろ)
 捨て去られてしまった布である。
 傷を受け。あるいは放たれ、傷増やし。
 空よりも、海よりも、陸の果実に近しき青色。
 手負いのけもの。


「せっかくだから、着てみたらどうだ。遊星」
「……くだらないことを言う」
 ジャンクを漁る手をとどめて、遊星が息をつく。
 伴って向けられる、紺。青。空よりも、海よりも、陸の果実に近しい。
 いずれとも異なるかも、知れない。


 とはいえ、何にしても、遊星は男である。
 どちらかと言えば肉のない方であったが、骨格はきちんと育て上げられている。
 女物のドレスが、あつらえた様に似合おうというはずもない。
 とすれば如何なものであろうか。
 己が想像。美的感覚。

 傑作だ。


 そうしてジャック=アトラスはドレスを片掌に掴んだまま、何かをばかにしたかのように笑い出したのである。






 さて、不動遊星という名の『男』が、投棄されていた一着のドレスが、その後の彼らが、
 どれほどに『くだらなく』『傑作で』はずかしい真似をしたのかと、いうと。














☆ねこみみ→ジャック×遊星×ジャック





 不動遊星が、ジャンクの山の中に座り込んでいる。
 細身のシルエット。彼のもの、ひとつ。
 彼のことを慕ってはうろちょろとまとわりつきがちな、チビのラリーの姿はない。

 影に影を、ゆっくりと重ねていくように、ジャックの両脚は遊星へと近付き歩んだ。
 すると。
 不意に、遊星の肩が跳ねる。
「!」
 続いて、なにかの動物のような鳴き声があった。
 その出元を視線によって追うよりも先、振り向いた遊星の両瞳と、ジャックのそれがぶつかる。
「…………」
「……なにをしてる?」
 先んじて口を開いたのはジャックの方であった。
「……逃げた」
「なに」
「……耳が」
「なんだと?」
 表情でもって訝しむジャックを、見上げる遊星の視線はどうしてかどこか恨めしげにも感じられる。
 見間違いかも、知れなくはあるが。


「耳が、似てたんだ。お前に……」
「は?」


 いよいよもって解らなかった。



「…………猫」
「……………………」



 そして、理解したくもなくなってきた。







「……だれが、ネコだ」


 唇を噛む。
 二人の少年の頭上に、太陽は未だ、高い。














☆メールでの絵文字多用→ジャック×遊星←ラリー?





 サテライトの人間は端末など、持たない。持てない。
 上々の皆様方はそのようにお考えかも知れないが、実情はやや異なる。
 果ての姿の行き着く場所。ゆえに、すべてを生み出し得る場所。
 がらくた置き場、サテライト。

 そういったわけで俺たちは互いに、例えばメールのやり取りをすることができる。
 昨日に新しい端末を得たばかりの、不動遊星からの一通を紹介しよう。
 つい先程に受信されたばかりだ。






  ジャック(^-^*)/
  ホイールの ‐=≡ヘ(*--)ノ パーツさがし ((o(・x・ )o( ・x・)o))
  明日は南の方 =(ノ゚ー゚)ノ でやろうと思っている ((o(^∇^)o))
  午前の九時 ('-'*)ノシ にいつものところで ヾ(σ_σ)X(^∇^)ゞ

  ┌|∵|┘ 遊星 ┌|-.-|┐








 危うく、端末を握りつぶすところだった。









「ラリー……貴様だな……」
「あれ、なんでバレたの?」
「こういうたちの悪い冗談をあいつに吹き込むのは、だいたいにして貴様だッ」
「絵文字使えるようになった、って言うからさあ。ジャックがあ、喜ぶかなーと思ってぇ……」
「喜ぶか!」













 『指定で妄想バトン』をまわしていただいた際に、そのお題に沿って妄想させていただいたものです。
 上目遣い、ツンデレ、無口、女装・男装、ねこみみ(、バカ)、メールでの絵文字多用
 5D's放映初期のものなので、ところどころに矛盾があるかもしれません……
 お題『バカ』につきましては、確実に矛盾してしまっていたので下げさせていただきました。




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