ジャパニーズの平均と比すればそこまででもないのだろうが、幼く感じられる、十代の姿がより小柄に見えてくる。
それでも彼は元より幾らか、背丈をのばしてこちらへと戻ってきたのだ。顔立ちもずいぶん大人びたように思われる。
とはいえ、体格やらひと時の表情というのはそこまでたいした問題でもない。
そもそも個人差のあることで、オブライエン自身にしてもどんなに鍛錬を積んでこようが、身長の方になるとアモンやジムに比しては適っていなかった。それでも、まだ少しずつ伸びていく気配があるにはある。十代もまた同様であるのかも解らない。
何はともあれ、『たったいま』彼のその身を縮こまってしまったように見せているのは何であろうか。
暫し見ていれば解ることではあった。内心の方での問題なのだ。
「十代」
後ろめたさなど感じる必要はないのだと、現にいま自分は何も悔やんでなどいないのだ、と、容易に伝えるための言葉をオブライエンは持たなかった。
理屈としての言葉であれば母語にしろ日本語にしろ、その一通りを習得しているつもりでいる。しかしながら使い方についてとなると知識とはまた別問題だ。身長の話と同じことで、どうしても個人差というものがある。
ジム、ヨハン、アモン。似たような時期から互いに関わりをもった面々のことを思い返してみても、おそらく最も口べたであるのは自分に間違いないのだろう。
それでもオブライエンの思うことはオブライエンの言葉によってしか生まれでていくことはない。ふと、十代が口を開いた。
「オブライエン。オレは」
オブライエンの知っている十代の、その多くは、口数の絶えない少年であった。しかし目の前にあって何かを言い兼ねているのもまた、彼である。
「……あのときお前のことを」
その『何か』が『何であるか』をオブライエンは知っていた。既に知っているはずであった。もう少し言葉を選び抜くことが得意であったならば、彼の気持ちをより上手に汲んでやることもできたものであろうか。
「俺はそれを、後ろ向きに振り返る必要はないと思っている」
「けど、あの時のオレだってオレなんだ! ……だから実際、まだ覚えてる」
たやすく気の済むようではなかった。ことにオブライエン、そしてジムとは、直接にぶつかったためであるのかもしれない。
それならばいったい、そうした立場であるオブライエン自身からいったい、何を言葉にしてやれる。
しばし考えてからふと、思い当たるもののあるところに行き着いた。
どこか冗談めいてしまうと、己の性分には似合わぬものであろうか。しかし何もせず、今このまま、うやむやにしたままでいるよりはきっと良いのではなかろうか。
それにあながち、まったくの冗談でもない。
「十代、それならば……振り返らないでいる、その代わりにひとつだけ頼みたいことがある」
「頼みたいこと?」
「ああ。できることなら」
「言ってくれ!」思わずであろうか拳を握る十代に、オブライエンはやや声をひそめた。
「……俺がいちど腰を抜かして逃げ出したことは、俺たちだけの秘密にしておいてくれるか?」
十代がその、大きな瞳をきょとんと見開かせる。オブライエンも微かに笑った。
実際にはあと、翔がその際のことを知っていたような気がする。
あのときオブライエンが感じたことのないような恐怖に苛まれたことに間違いはなかった。しかし今や残っているのは、とりあえず間違いなく腰を抜かして逃げ出しはしたという事実、それだけである。
気持ちの上ではすでにたいした重みでもない。
とうに後ろの方へと、通り過ぎていったような事柄であった。
「…………へ、それ、だけか?」
「それだけだ。強いて言うなら、情けないからな」
「オブライエンでもそんな風に思ったり、する……のか?」
「ああ、そんなものさ。……そんな、ものだ」
つまり、巧く伝える言葉は持てなかったがやはり決して大それたことのようには思わない。
むしろこうして目の前に、彼が真っ直ぐにたたずんで首を傾げているのだということ。
その方が『たったいま』においては大切な現実であり、尊いものでもあるようにオブライエンには感じられていた。
というまったくの再会捏造でした……!
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