美しいかどうか。
 それとも、美しいと感じるか、どうか。










 足りないんだ、君が。
 君のことが。
 ながくながく、足りないままだった。
 飢えていたよ。乾いていたんだよ。それらの満たされるようなことは、なかった。
 だって足りていなかったものはあくまでも、君、たったそれだけだったのだから。

 もちろん僕の中にはいつだって君があったよ。
 けど、それはただ僕の中に残っていた『君』にすぎない。


 それしかない。
 そんなに、ある。

 なんとでも言えるさ。
 それでも結局はどうしても他と比べて、多いか少ないかという風に判断をしてしまうんだ。
 そもそも存在するということ、自分自身がいったいナニモノであるのかということ、それらを保つところからすら命は常に鏡を必要としているというのに。
 我が身をうつしてこたえてくれる、ほかの誰かという鏡のことを。

 それなのに君はとてもずるいよ。
 僕がこんなに近くまで戻ってきてみても、君の方へと向かって呼びかけてみても、僕ではないものにばかりその気持ちをわたしているだなんてね。


 ぼくは君のものだった。
 そして、君によって許されるものだった。
 ぼくには実に君だけだった。
 だからこそ何もさびしくなかった。
 さびしくはなかったのに。



 『どうして失ってしまったんだ』。
 どうして引き離されてしまったの。

 『俺の何がいけなかったんだ』。
 僕の、何がいけなかったの。



 それとも十代、それは君の奥底にゆらめいている、愛なのかな。
 一番深いところにあって、きっと何よりも色濃い、愛なんだろう。
 だって君のそれは僕のものなんだものね。

 ここにしかない。
 すべてここにしかない、僕だけの。






 たとえば失ってから、そのときようやく、持っていたんだっていうことに気付くような人間だってあるんだろう。
 けれども僕はいつだって解っていたつもりだ。
 片時だって気にかけないことはなかった。
 君がそこにいるということ、
 そして僕が君を、
 君のことを守らなくちゃいけないんだっていうことも!






 だから僕は帰ってきたんだよ。
 君の傍にまでいくために。
 また君のかたわらにあって、僕のものであるべき愛から真っ直ぐ照らされることができるように。


 ただ、美しいかどうか。
 それとも、向かう誰かにとって美しいと感じられるかどうか。
 いったいどちらがより正しくて大切なことだと言える。
 僕のたったひとつの『鏡』が君であるなら、僕の想いをはかるのも等しく君なのだから、やっぱり君に委ねることになるのかな。
 美しいかどうか。
 君へ向かう、僕という存在ひとつ。

 醜くたってかまわなかった。
 君がそこにいるなら、僕と向かい合っていてくれるのなら、たとえ何であってもかまわない。
 なんにだって耐えることができる。
 なんだってすることができるさ。今までも、今も、そしてこれからだって。

 僕は君のために、すべて君のために、これからもなお在り続けることだろう。
 そのための何もかも決して失ったりはしないから。





 だからいつだって、いつだってこうして、そればかりを考えているんだ。
 他ならない君のことを。
 よく知っているよ。
 どんな誰よりだって、よく知っている。

 














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