とある日、すっかりと静けさの定着してしまっている、レッド寮へと足を踏み入れたときのことである。

「実は俺、もう食べなくたって生きていけるらしいんだ」

 十代がそのようなことを言いながら、しかしエビフライを頬張っていた。

「それなのに、食うのか?」
「カラダが覚えちまってるからな。それに、せっかくの新鮮なエビがもったいない」




 数日の後、やはり続いて静けさの定着してしまっている、レッド寮へとまた足を踏み入れたときのことである。

「実は俺、もう眠らなくたって生きていけるらしいんだ」
 
 十代がそのようなことを言いながら、しかし三段ベッドの下段のところに寝転がっていた。

「それなのに、寝るのか?」
「カラダが覚えちまってるからな。それに、せっかくの静かな夜がもったいない」
「今は昼だ」




 更にそのまた数日の後、相も変わらず静けさの定着してしまっている、レッド寮へとそれでも足を踏み入れたときのことである。

「今日、いつまで居られるんだ?」

 十代がそのようなことを言いながら、建物外側の階段のところへ腰掛けている。
 周囲はもう既に薄暗くなってきていた。夜が近しくあった。


「お前への連絡を済ませたら……すぐに出る、つもりだ」
「もったいない」
 立ち上がりはせずに顔を上げ、こちらへと視線を合わせてくる。
「なにが」
「オブライエン」
 食べなくとも眠らなくとも生きていけるのだという細い身体が、微かにも笑んでみせながらに揺れた。


「お前が減った」
「…………どんな日本語だ」

 それを母語として持つわけでもないのだが思わず、呆れた風に返す。
「おかしいか?」
「さあな……」
 ぼんやりと答えて一方、内では去り行くにあたる指針が、今まさに溶け出していくような感覚を受けていた。
 仕方がない。


 仕方のないことだ。
 この身体もまた、飢えるということぐらいはとうに理解してしまっている。






 そうしてその晩にオブライエンは、そこから足を踏み出すことを諦めた。

   











 オブライエン調査活動中 inアカデミア




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